「あのときはお連れ様がいらっしゃったので、余計なことは言わない方がいいかと思いまして……」
もごもごと言い訳をする。
「ああ、そうか」
意外にもさらっと納得した社長。彼は手に缶コーヒーを持っていた。
「ところで、どうしてこんな時間にここにいる。今から休憩か?」
「ええ、まあ」
あなたが松倉先輩の前で堂々と私を拉致するから、嫌がらせに合っているんですよ。
とは、言えなかった。言ってやってもいいかと思ったけど、やめた。そんなくだらないことで傷ついていると思われたくなかった。
「社長こそ、どうしてこんなところに?」
仕事大好きなくせに。っていうか社長なのに、こんなところでサボっていていいわけ? 手に持った缶コーヒー、全然似合っていない。秘書に高級豆で入れたコーヒーを、マイセンのカップで飲むべきでしょ。
「息抜きに決まっているだろ。俺だって、オフィスから出たいときがあるさ」
彼は私を手招きして、もといたベンチに戻っていく。
「何している。ここへ座れ」
えええ……。
近づいた私は狼狽える。ベンチはそんなに大きくなく、二人で座ると距離が近くなる。



