意地悪な顔で言ったあと、先輩はぷいっとパソコンのディスプレイの方を向いてしまった。

　もしかして、先輩の誘いに私が乗らなかったから？　厳密には社長に拉致されたんだけど、恥をかかされたとでも思っているの？

　冗談じゃない。勝手に勘違いして、タダで泊まれる権利をちらつかせて誘ったのはそっちじゃない。結局はフラれた腹いせってわけ。くだらない。

　周りを見回すと、女性社員が寄り添ってひそひそとこっちを見ながらしゃべっていた。人望のある松倉先輩がどのように話を盛ったのかわからないけど、とにかく私は“仕事もロクにできないくせに、社長と遊んでいる女”という肩書を付けられたらしい。

　わざわざ弁解するのもバカバカしくなって、その場を離れた。北野さんがこっちをちらっと見たけど、やっぱり何も言わなかった。派遣の立場で何か発言したら、自分が攻撃されるかもと思うんだろう。

「は～、ちょっと遅くなっちゃったな～」

　誰よりも始業時間ぎりぎりに、部長がやってきた。ざわざわしていた空気が一旦断ち切られた。

　いいわよ、やってやるわよ。雑務だもの、すぐに片付けてやる。

　鼻息を荒くして書類に向かう。しかし、普段やっていない仕事は、思ったよりも手間取った。北野さんに助言を得たいところだけど、彼女に迷惑がかかるといけないのでやめた。

　そうして私は思いもかけず、静かに職場いじめの中に飛び込んでもがくことになってしまったのだった。