「すみません、これ私のところにあったんですけど。間違ってないですか?」

 一番上にあった書類を持って、それに付箋を付けた松倉先輩に声をかけた。彼はメガネを上げながらこちらを振り返り、さらっと言った。

「横川さん、暇でしょ。特に大きな仕事を担当しているわけでもないし」

「はい?」

 わけがわからず、思考がフリーズしてしまう。それって、やっぱり私にやれってこと?

「こういうお仕事は、いつもは北野さんにお願いしていると思うんですけど」

 北野さんというのは、雑務の派遣さんのこと。離れた彼女の机には、それほど仕事が溜まっていないように見える。そして彼女は、決して座ったまま顔を上げようとしなかった。私たちの会話が聞こえないフリをしているみたい。

「北野さんだけじゃこれだけの量さばくのは大変でしょ」

「だからって、どうして私に」

 疑問を解消したいだけなのに、松倉先輩が小さく舌打ちをした。私以外には聞こえないように注意を払っているように見えた。

「仕事が終わったあと、社長と遊ぶ暇はあるんだろ?」

「なっ……」

「どうせ社長に取り入るなら、仕事で勝負したら。どんな繋がりか知らないけど、いい気になっているとすぐポイされるよ」