今まで絵画に関連してあまり評価されなかった反動か、不覚にも社長の言葉を嬉しく感じてしまう自分がいた。

「ベストを尽くします。祖父や祖母のために」

社長のためとは言えなかった。それでも彼は、満足そうに微笑んだ。それは破壊力抜群の微笑みだった。

いつの間にか料理は終わり、食後のデザートとコーヒーが運ばれてきた。それをすすり、社長がため息をついた。

「これも美味いが、横川さんの淹れるコーヒーには敵わないな」

おばあちゃんのことだろう。変なところで素直に敵に賛辞を贈る彼がおかしくて、コーヒーを噴きだしそうになった。

「特別高級な豆を使ってはいませんけどね。お客さんに対する愛情の差じゃないですか?」

そんな私の言葉を、社長は華麗にスルーした。どうやら、理論的でない会話はしない性質らしい。

「そうだ、彼女にこのホテルに来てもらえないだろうか。カフェスペースで彼女のコーヒーと素朴なイギリスの伝統菓子を出す。喜ばれること間違いなしだ」

新しい遊びを思いついた子供のような顔をしてそんなことを言うから、私はコーヒーを嚥下したあとたまらずに声を出して笑ってしまった。