ぼーっと見惚れていると、何も注文していないのに食前酒が運ばれてきた。グラスに手をつけるのを躊躇っていると、呆れたように社長が口を開く。
「お前みたいな平社員に金を払えなんて言わないから。遠慮なく食べろ」
……一か月で五千万返せって言ったくせに。
じとっと睨むけど、当の本人は涼しい顔。
「では、いただきます」
腹が減っては戦ができぬって言うものね。いくら社長が敵でも、毒を盛られることはあるまい。
開き直って、テンポよく運ばれてくるコース料理を遠慮なく口に運んだ。
「うっ、うう……っ」
なにこれ涙が出そう。お肉は柔らかいし、魚はぷりぷり。なんて言っていいのかわからない名前のソースがかかっている。
料理が運ばれるたびにウェイターさんが説明してくれるのだけど、聞きなれない単語ばかりで覚えきれない。だからどれも、“正体不明だけど美味しいソース”として記憶に刻まれた。
「美味いだろう」
「はい、美味しいです」
ぱくぱくと夢中で食べていて、ふと我に返った。
「でも社長、どうして私にこんなことを?」
スパ体験に豪華な料理。彼女でもない私に、彼が無償でこんなことをする理由が見当たらない。



