私が息を止めていたからか、松倉先輩もホラー映画のように、ゆっくりと振り返る。そしてすぐ、二、三歩後ずさった。
「しゃ、社長」
やっぱり、先輩くらいハイクラスの仕事をしている人は社長の顔を見る機会もあるのね。私なんて、仕事先で話しかけられても全然気づかなかったのにって、そうじゃない。
「どうしてこんなところに……」
手ぶらで秘書も連れていない彼は、今日も高そうなスーツをびしっと着こなしていた。オフィスから遅れて出てくる社員たちが、何事かとこちらを見ながら、社長に挨拶して帰っていく。
「迎えに来た」
「はい?」
社長は私の真ん前で立ち止まり、こちらを無遠慮に見下ろす。そしてその鋭い視線を松倉先輩に向けた。
「見覚えのあるカードだな。それは内覧会限定の予約票か。まさか、会社が仕事のために与えたそれで、女子社員をデートに誘っていたんじゃあるまいな」
「い、いえ、あの……」
それまで涼し気だった松倉先輩の目が宙を泳ぐ。
「それとも何か。お前たち、付き合っているのか。それなら何とも言えないが」
「いいえ、全然!」
咄嗟に否定した私の横で、松倉先輩がもごもごと言い訳をする。
「彼女が僕の担当したホテルを見たいと言うので……」



