「これ、どう思います?」

突然隣から声をかけられた。驚いて振り向くと、隣に背の高い男性が立っていた。

この場に不似合いな細身の高級スーツを着た、二十代後半くらいに見える男性。絵から視線を外してゆっくりこちらを向いた顔に、思わず見とれる。

きりっと上がっている、二重の瞳。意志の強そうな、直線的な眉毛に大きめの口。

「この絵のことですか?」

不躾に見つめてしまった自分を隠すように、勢いよく絵に視線を戻す。ひとつに縛った髪が首を叩いた。

「ええ」

「ほっこりする絵ですよね。でも……」

「でも?」

「もっとあっさりした、風景画でもいいと思います。船を描いたイラストとか。あまりに日本風でここでは浮いているというか」

絵の前で腕組みした彼を盗み見ると、小さくこくりとうなずいた。

「同感です」

おそらくほとんどの宿泊客がスルーするであろう絵を、真面目に見ている。

不思議なひと。よっぽど絵が好きなのかな。

それにこの顔、どこかで……。もしや、芸能人? それにしては顔隠さないな。

「ここへは、お仕事で?」

男性が不意にこちらを向くから、不覚にもどきりとしてしまった。