「まあね。やっと担当していたホテルがオープンするだけになったよ。だからこうして社内にいられるわけだ」

「オープン……もしや、都内にできた会員制の?」

同じ時期にオープンする高級ホテルは他にない。希望を込めて見上げると、先輩は少し驚いたようにまばたきした。

「そう、それ。よく知ってるな」

ビンゴ! 何たる偶然。

内心喜びながら、なぜそんなホテルのことを知っているのか、説明に苦労する。

「あ、ほら……社内メール回ってきたじゃないですか。社員は優待価格で会員になれるって……」

その会員権が一番小さい部屋で四百万、広い部屋だと一千万越え。何人かの会員でシェアして使うシステムだ。払うお金によって、年間に宿泊できる日数が決まる。

会員権だけでなく、年会費、維持費が必要で、それが大体三十万円と知ってドン引きした。

当然、会員権と年会費だけで泊まり放題なわけじゃない。宿泊するには一番安い部屋で一泊五万。最上階にいくほど、値段は跳ねあがっていく。

「あれな。平社員で会員になるやつなんていないよな。なるとしても役員だけだろ」

小さな声で笑う先輩の目が、細くなる。