待ちくたびれた? 昴さん、どこかで私の仕事が終わるのを待ってくれているのかな。

 バッグを肩に掛け、携帯を耳にあてたままオフィスの外に出る。きょろきょろと周りを見回すと、廊下の先からこちらに歩いてくる長身の人の姿が。

「さあ、行こうか。今日は約束の日だ」

 目の前まで来た昴さんはそっと大きな右手を差し出す。私はうなずいて自分の手を預けた。


 昴さんの車に乗って、見覚えのある景色の中を行く。到着したのは、もうすぐグランドオープンする会員制ホテルだった。

 初めて昴さんに会った日。あの日課題として出された絵を飾るホテルだ。

 一人だけ場違いな、いつも通りのシンプルな仕事着な私。それなのに、昴さんに手を引かれるだけで、お姫様のような気分になるから不思議。

 入口を入り、カウンターの傍を抜け、談話スペースの壁の前に向かう。カウンターには支配人の姿が見えるだけ。灯りもオープン作業に必要最低限な分しかつけていないらしく、薄暗い。

 照明に照らされた壁は、布で目隠しがされていた。

「さあ、答えを聞かせてもらおう。ここに飾るのにふさわしい絵を、お前は見つけられたのか?」