東京に帰ってきた私を待っていたのは、松倉先輩の冷たい視線だった。彼は怪しい国際電話にも出たし、社長が来たことも知っている。けれど、お父さんをハンガリーまで迎えにいったという話はなかなか信じてもらえなかった。

 丁寧に私のためにとっておいてくれた多量の仕事をこつこつとこなし、気づけば終業時間に。それでもまだ集中してパソコンに向かっていると、肩をトントンと叩かれた。

「残業時間多いと怒られちゃうから。適当な時間で帰ってよ」

 課長に言われて、顔を上げる。疲れた目をこすってパソコンを見直すと、もう夜七時になろうとしていた。

「はい。お疲れ様です」

 ちょうどキリがついたところだ。あとは明日からにしよう。パソコンをシャットダウンし、カチコチに固まった肩を回す。

 首もほぐして、さあ立ち上がろうとしたとき。カバンの中で鈍い震動音がした。携帯だ。

「はい、横川です」

 電話に出ると、向こうから低い声がした。

『もうそろそろ終わるか』

 昴さんだ。小さく胸が躍る。

「今終わったところです」

『それは良かった。待ちくたびれたところだ』