「今回の三人分の渡航費、入院費は俺がすべてお支払いします。その代わり」

「その代わり?」

 緊張した面持ちで反復したお父さんに、昴さんは真面目な顔で告げた。

「美羽さんを、俺にください」

 沈黙が病室の中に落ちた。

 いやいやいや! お金払うから娘をくれって、それってただの人買いじゃん! やっぱり悪役!

「昴さん、それは」

 いくらなんでも、父親が娘を売り飛ばすわけ……。

「よろしくお願いします!」

 お父さんはベッドの上で膝立ちになり、昴さんの手を両手で握りしめた。頬を紅潮させた、満面の笑みを浮かべて。

「いいのかよ!」

 あまりの展開に、言葉が汚くなってしまった。アンナさんが丁寧に私たちのやり取りをドクターと事務さんに説明している。そこはしなくていいっつーの。

「さあ、決まりだ。今夜はホテルに泊まって、明日帰ることにしましょう」

「ちょ、ちょっと待ってください昴さん」

「一日でも早くお父さんを退院させないと、入院費が膨れ上がるぞ」

 恐ろしいことをぼそりと呟かれ、口をつぐんだ。