「あ、そうですかぁ。おい美羽、こんないい男を捕まえるなんて、お前も隅に置けないなあ」

「やめてよ、捕まえるとか」

「いいじゃないか。でもどっかで聞いたことあるなあ、西明寺って名前……」

 この前の電話で話したでしょうが。西明寺ホテル(株)に実家の土地を狙われてるって。

 創作以外は興味のないお父さんのことだ。そんなことももう忘れているのかもしれない。

 無駄な心配をかけないよう、昴さんの素性については黙っておいた。

 話の途中で、ドクターが戻ってきた。隣にはシャツを着た女性が。「この人は医療事務員ね」とアンナさんが教えてくれた。

 彼女は私に、ハンガリー語がプリントされた紙を差し出す。

「領収書だな」

 昴さんが横からのぞきこむ。

 私はごくりと唾を飲み込んだ。保険がきかない医療、しかも数日電話を放置したせいで個室代もかかっていることだろう。高額であろうことは予想できた。

「ええと……日本円で、約六十万円ね」

「ろ……っ」

 言葉を失った私に代わり、昴さんが小さな声で尋ねる。