「だからお父さんから了解を得て、あなたに国際電話をかけたそうよ」
「だって、ドクターは“入院しているということを家族に知らせるだけ”って言うから。俺は嫌だって言ったんだよ。でも身内の電話番号を教えなければ、領事館に言うって脅すし」
あまり大事になると、今後創作のために渡航しづらくなると思ったんだろう。強制送還されるよりはよかったかもしれないけど、迷惑な話だ。
ため息を吐き出したとき、ドクターがまたハンガリー語で何かを言った。アンナさんは神妙な顔つきでうなずく。
「今回CTやレントゲンで、胃や腸に影が見つかったそうよ」
「ええっ!」
なぜそれを早く言ってくれないの。身を乗り出すと、ドクターは怯んだようにアンナさんに早口で説明する。
「採血の結果では、そんなに重病ではなさそうだけど、念のために日本に帰ってしっかり検査をした方が良いんじゃないかって」
そうなんだ……。日本の病院なら保険が使える……って、お父さん会社勤めじゃないけど健康保険入っているのかな。
疑惑の眼差しを受けると、お父さんはへらっと笑った。



