「お父さん、五日前に行き倒れていたのを現地の人に見つかって救急搬送されたんですって。主な病名は脱水症状と栄養失調ね」
「だ、脱水……」
ぜんっぜん大したことない。いや、脱水だって重症になれば命の危険があるだろうけど、ハンガリーから呼び出されたこっちとしては、癌や血液系の病気かと思ってハラハラしていたのに。バカみたい。
「救急要請してくれたのがいい人で、貴重品は何も盗まれていないらしいわ」
「おお、そうなんだよー。パスポートも財布も、絵の具もなんもかんも、全部そろってるんだ。すごいだろ」
自慢するお父さんの視線の先、窓際に汚いリュックと絵の具バッグ、キャンバスが見えた。
「じゃあ、どうしてわざわざ家族を呼んだんですか……」
脱力してドクターを見ると、彼はアンナさんに淡々と何かを説明していた。
「お父さん、ハンガリーの社会保険を払っていないから、全ての医療が実費なの。悪い人じゃなさそうだけど、入院費を踏み倒されるのを懸念したのね」
「はう」
なんて情けない。『小汚い行き倒れの日本人、入院費が払えなさそう』と思われたんだ……。



