「瀕死の病人がこんな点滴ひとつで寝かされるもんかね?」
「んー、ないでしょうねー」
昴さんはいつのまにかベッドの反対側に回っていて、そこにあった点滴台を指さす。アンナさんは昴さんに同意していた。
「ふごっ」
「わああ!」
急にお父さんの口から大きな音がして、思わずのけぞる。
「ん、あれ……?」
ぱちぱちと瞬きをし、目を開くお父さん。寝ぼけていた目が、だんだんと焦点を結んでいく。
「お、おお! 美羽じゃないか! やっぱりお前のところに連絡が行ったか。よくこんなところまで来られたなあ」
上体を起こしたお父さんは、嬉しそうに床にへたりこんだ私の肩を叩く。
「な、なによ意外と元気なんじゃない……」
ちょっとやつれているけど、言葉はハッキリしているし、ないように矛盾もない。指の爪の間に油絵の具が入ってしまっているのがお父さんらしかった。
立ち上がると、背後のドアがノックされた。入ってきたのは、白衣を着たでっぷりとした髭のおじさんだった。ドクターだろう。
ドクターが私たちに向かって笑顔で何事か言う。アンナさんはそれを流暢な日本語に直してくれた。



