「迎えに行くって言ったって……」

 混乱でめまいがしそう。どうやってひとりでハンガリーの病院を探していけと言うのか。

「落ち着け。お前ひとりで行かせたりはしない」

 テーブルの上に置いていた震える手を、そっと包まれた。顔を上げると、昴さんが真っ直ぐにこちらを見つめていた。

「俺が一緒に行く。ヨーロッパは詳しいんだ」

「え、でも」

 昴さんがそう言ってくれるのは嬉しい。どれだけ心強いだろう。でも、彼は社長だ。いきなりそんな遠くに行っていいの?

「心配するな。仕事の都合は今日つけてきた。今のタイミングなら、休暇が取れる」

「今日つけてきた?」

「偶然だが、何日かあとの予定だった他のグループ会社との会合が急遽開かれた」

 そういえば、昼間秘書さんとどこかに出かけていくところを見かけたっけ。

 思い出すと、自然に眉間に深いしわが寄った。

「それさえ終わってしまえば、どうしても俺が出ていかなければならない場所は今のところない。例のホテルの開業も、基本は社員主導だし」

 昴さんは胸ポケットから携帯を取り出した。