意外にも松倉先輩は、タクシーを拾って自宅までちゃんと私を送り届けてくれた。

「じゃあ俺帰るから」

 タクシーの中で泣き続けた私は、自宅に着くころにはだいぶ落ち着いていた。

「すみませんでした。良かったらお茶でも」

 仲良くもないのに、そこにいただけで巻き込んでしまったことは、本当に申し訳ないと思っている。

 普段だったら嫌な事があっても自分の中で処理してしまう。こんな風に感情が爆発してしまったのは初めてだ。

 社交辞令で家の中に誘うと、先輩は深いため息をついて私をにらんだ。

「こういうのはやめた方がいい。俺が悪いやつだったら、やられちゃうよ」

「う……」

「ホテルの見学会のときもそうだけどさ、横川さんって危なっかしいんだよね。周囲に興味ない風でいて、自分が困っていると誰にでも頼りそうになる。いつも素っ気ない女がなよなよっと寄ってくるとさ、男は勘違いしちゃうよ」

 玄関先で、私は小さく縮んだ。

 確かに、いつもは先輩のことを嫌って警戒しているのに、こんなときだけ頼るなんて虫が良すぎるよね。

 自分にその気がなくても、周りにそう思われるのは本意ではない。