だって、彼はあなたたちが買ってきたこじゃれたパンやサラダをいらないって、私にくれたんだもの。おにぎりだけでいいって言ったものを、おかずまでつけたのに、そんな風に言われるとは。
女子力が足りない自分も悪いけど、昴さんのお弁当を勝手に見て勝手に批評しなくても。
植物の陰からじとっと秘書さんを睨んでいると、グロスを塗った唇が滑らかに動いた。
「社長も悪い人ですね。あの土地が欲しいからって、所有者の孫を口説くなんて」
そこまで言ったところで、エレベーターが到着した。二人は黙ってそこに乗り込む。昴さんの表情は見えなかった。
ひとり残されたエレベーターホールで、のろのろと観葉植物の陰から出てくる私は、傍から見たらどれだけマヌケだっただろう。
『あの土地が欲しいからって、所有者の孫を口説くなんて』
どういうこと、なんて考えるまでもない。
昴さん……ううん、西明寺社長は敵である私を陥落して、楽に実家の土地を手に入れようとした。そういうことだろう。
やっぱりそうか。セレブ社長が庶民の私を気に入るなんて、ありえなかったんだ。
私が社長にほだされれば、無条件降伏すると思ったのか。借金だけじゃ、私たちをあの家から追い出すのは難しいかもしれないと思ったのか。



