「遅くなりました」
「いや、ありがとう」
昴さんはお弁当を受け取り、それだけ言うと、さっと踵を返して行ってしまう。
そんなに忙しいの……?
声をかけたかったけど、それより前にセキュリティ用のドアが閉まってしまった。それに隔てられても、昴さんの背中が見えなくなるまで見ていると、ふと廊下に面したドアが開いた。
スカートを履いた綺麗な女の人。秘書さんだろう。姿を見られぬよう、ちょうど来たエレベーターの中に滑り込んだ。
なんだかすっきりしないなあ。
自分用のお弁当が残ったトートバッグをのぞく。そこで気づいた。
「あっ、いけない」
慌てていて、自分用のお弁当を昴さんに渡してしまったらしい。私用のは小さなおにぎり二つだけで、成人男性にはとても足りないだろう。同じデザインの袋に入れていたから、間違えてしまった。
エレベーターは少し下の階に降りている。私は次の階のボタンを押し、一度降りる。そして上階へ向かうエレベーターに乗りなおした。
携帯を出し、お弁当を間違えたことを昴さんに伝えようとする。しかしそれが完了する前に最上階へ着いてしまった。



