頼み? 私に?
助手席から運転席を見ると、昴さんが正面を向いたまま言った。
「おにぎりを握ってきてくれないか」
「おにぎりですか?」
そういえば、二回ほど昴さんにおにぎりをあげたっけ。全然SNS映えしなさそうな塩昆布の渋いおにぎりを。
どうしてそんなにおにぎりを欲しがるんだろう。あ、もしかしてあれかな。昭和のドラマで有名になった、白いタンクトップで坊主頭のおじさんが放浪するやつの影響かな。
おじさんは実はちぎり絵で有名な山下清なんだけど、素性を隠して旅をするんだよね。そして行く先々で優しそうな人におにぎりをねだるというシーンがお約束。
「山下清を目指しているのですか?」
「は? どうして俺が今からちぎり絵師にならないといけない。ただ食べたいからに決まっているだろう」
赤信号で止まった昴さんが苦々しい顔でにこちらをにらむ。
「米代が惜しいなら、出してやる」
「いやいや。別にブランド米とか指定がなければそんなのいりませんよ」
最高級コシヒカリしか食べないとか言われると困るけど。
「お前の手で握ってくれれば、米の銘柄は問わない」



