ああ、私はこのひとにキスされたかったのかもしれない。
認めてしまったら後戻りできなくなる気がして、警戒していた。けれど本当は、いつも彼に抱きしめてほしかった。自分の存在を認めてほしかった。
夢を諦め、仕事にも自信がなくて、毎週東京から田舎の実家に帰っていた私。実家のギャラリーをなくしたくなかったのは、何も誇れることのない自分の居場所を、失いたくなかったから。
そして……いつの間にか私は、社長に惹かれていた。
気づいて認めてしまうと、それはとてもシンプルな事実だった。
最初は本当に悪魔だと思ったし、大嫌いだった。でも彼は、ごく自然に私の心に入り込んできた。
絵のことを考える私の顔を好きだと言ってくれた。彼は私に新しい世界を見せてくれた。彼がいるだけで、つまらなかった日常がカラフルに彩られた。
私が泣いた時には、そっと抱きしめてくれた。と思えば、強引に唇を奪われたりした。翻弄されるうち、私の方が彼の姿を社内で探してしまうようになっていた。
長いキスのあと、唇を放した彼が囁く。
「どうした。今日は素直だな」
私の耳や首の形を確かめるように、彼の指が踊る。悪魔のような魅力的な瞳にぞくぞくする。立っていられなくなりそうだ。