「まず絵に描く前に、実物をしっかり確かめておかないとな」

 彼はそう言い、大きな手で頬を隠していた髪を耳にかける。耳朶に触れた指先に、びくりと反応してしまった。

「丸い頬、丸い目」

 ひとつひとつのパーツを確認していくように、指先が顔の上を滑っていく。いつの間にか、社長に両頬を包みこまれていた。

「ふっくらとした唇」

 社長の右手の親指が、下唇をなぞる。腰の辺りに電流が走ったような気がして小さく震えた。

 逆に、私の方が彼の顔を凝視してしまう。男性のくせにやけに綺麗な唇。

 近づいてくるのがわかるのに、不思議な引力で吸い寄せられているかのように、離れることができない。

「お前は綺麗だよ、美羽」

 彼の息を間近に感じ、そっとまぶたを閉じた。柔らかい物が唇に触れると、高揚しながらもどこかでほんの少し、ホッとしている自分に気づく。

 体の力を抜くと、社長は私の後頭部を逃がすまいと抑えたまま、片手を背中に回してきつく抱きしめた。