自分で自分の絵を見て思う。なにか足りない。どこかを直せば、もっと良くなる。もっと、もっと。

 そんな風に思うのは久しぶりだった。もっといいものにしたい。今までの仕事では味わえなかった感覚。

「褒めているよ。うん、美男だ。お前からは俺はこう見えているってことだな」

 スケッチブックを持ち上げ、社長が満足そうに眺める。

「顔は素晴らしい造形をしていますものね、社長。か・お・は」

「なんだと。お前はいちいち可愛くないな。よし」

 社長はスケッチブックのページを一枚めくった。

「今度は俺がお前を描いてやる」

「うえっ。お断りします。どうせピカソの『泣く女』みたいにする気でしょう」

「ピカソを馬鹿にするな。心配しなくても、俺はキュビズムより写実派だ。よかったな」

 全然良くない。社長の腕前はさっき見た通り。これで出来上がりがブスだったらへこむ。それに、実家から帰るだけだと思っていたから、化粧もそれほどしていないし、そろそろ崩れてくる時間だし。

 帰る口実を探していて、ふと気づくと社長が目の前まで接近してきていた。