別に悪くない。男女の友情が成立するかしないかという議論をする気もない。ただ私が、モヤモヤしているだけ。

「そんなに心配しなくても、彼女とはなにもない。彼女の方の気持ちはしらないけど」

「心配なんて……」

 それじゃ私が社長のことを好いているみたいじゃない。そんなバカな。敵を好きになるなんて。

 違う違うと、強く自分に言い聞かせる。自分のつま先を睨んでいると、目の前に鉛筆が差し出された。

「はい」

「はい?」

 思わず受け取ってしまう。顔を上げると、社長がイーゼルの上の真っ白なキャンバスをどかして、スケッチブックをそこに乗せていた。

「悩んだときは、描けばいい」

 彼は私の手を引き、スケッチブックの前に座らせる。

「無心で手を動かしていると、意外に心がスッキリするものだ。って、言われなくても元美大生のお前はわかっているだろうけどな」

 大きな手が、私の両肩に優しく乗る。こうして白紙のスケッチブックに向かうのはいつぶりだろう。

 思春期にも、色々と悩んだときには無心で絵を描いたものだ。描いている間は、嫌な事を忘れられた。描き終えると、なんとなく気持ちが整理できていたり、落ち着いたりしたものだ。