リビングに戻ったと思ったら、なんとまだ反対側に部屋があるらしい。高級ソファを素通りし、別のドアを開けた。
「えっ?」
日当たりの良いその部屋の真ん中にあったのは、イーゼルとキャンバスだった。その前には小さなスツール。奥の棚には油絵の具やそれを溶かすための油などが収納されている。明らかに、誰かが絵を描くための場所だ。
「まさか、社長が……」
「まさかとはなんだ。俺が描いてはいけないのか?」
「いえ、そんなことは」
たしかに意外でしたけど。
「漫画が好きなやつも小説が好きなやつも、音楽が好きなやつも、好きすぎると自分でもできるかもと思って自作し始めるだろ」
「ああ、いましたね、中学くらいのときから、携帯小説描いてる子とか、親にギター買ってもらってバンドはじめたり……」
「そういうのだよ。好きだから描いてみようと思った。プロを目指す気は初めからなかったけど」
社長は棚からスケッチブックを取りだした。ぱらぱらとめくるそれを覗き込むと、窓から見える風景のスケッチが見えた。どれもプロの領域とは言えないけれど、素人の趣味にしては見事な出来栄えだった。って、ちょっと偉そうかな。



