あごに手をあてて考える社長。

 そうだ、ここにある絵は社長のメガネにかなわなかったということだ。作品名を控えていかなきゃ。

 そんな私の思惑を見透かしたように、社長はさっと棚の隅からノートをとり出した。

「いちいち撮影していたんじゃ日が暮れるから」

 携帯を手に持っていたのを見られたか。たしかに、一枚一枚布をとって確認せずとも、札を撮影するだけで真夜中になりそう。

「線が引いてあるのは、他人に譲ったり、不要になって売ったものだな」

 ノートには社長の字で作品名と作家名が書いてあった。ぱらぱらとそれを見て感心する。購入した日付から手放した日付まで書かれている。意外とマメらしい。

「お借りしていっていいですか?」

「ああ。ここにある絵はしばらく動かす予定はないから」

 ノートを抱いて、宝庫……じゃなかった、クローゼットから出る。

「いいですね、社長のお宅。うらやましいです」

 こんなふうに高価な美術品を集められるとは。私もいつかは、好きな物だけに囲まれて暮らしたい。

「気に入ったなら、今日から住めばいい」

「へっ!?」

「二階にまだ部屋があるから。それより先に、今度はこっちだ」