まるで小さな画廊のような一室をあとにし、社長についていった先にあったのは、もともとウォークインクローゼットだったと思われる、縦に細長い空間だった。
左右の壁に括りつけられた棚に、ずらりと何かが並んでいる。それは、布で包まれた絵画だった。油絵の具やニスの独特のにおいが充満している。私にとってはカフェよりも心地いい空気を、肺が満たされるまで深く吸い込んだ。
「こっちは油彩、あっちはリトグラフや版画」
「すごい。気分によって、他の部屋の絵をかけ変えたりするわけですね。贅沢だわ」
社長のコレクションだけで、小さな美術館ができそう。おじいちゃんの絵しか置いていないうちのギャラリーより点数は多そうだ。
絵に付けられた札を見ると、なかなか市場に出回らない画家の作品もあった。ここの絵をすべてオークションにかけたら、とんでもない金額になることだろう。
「しかし、これだけあってもあのホテルに合う絵が見当たらない。お前の言う通り、人はそのときの気分によって見る絵を変えたいものだ。誰にでも受け入れられなければ困るが、つまらない絵は置きたくない」



