賑やかな東京の街並みが見えてきた頃、社長が口を開いた。
「今から、静かに話ができるところへ行く」
「それって、どこですか?」
西明寺社長は、秘密が好きらしい。私の質問に答える様子はなく、薄く微笑んだだけだった。
さらに三十分後。
「ええ……っ」
おとなしく助手席に乗ってきた私は絶句した。目の前には、四十階くらいはありそうなタワーマンション。真下から見上げると頂上が見えない。
車を地下の駐車場に停め、セキュリティを解除してエレベーターホールへ。
「あのう、ここって……」
お店というわけでもなさそう。ということは……。
エレベーターに乗り込み、社長がカードケースをモニターにかざす。すると機械的な声で『四十階へ参ります』というアナウンスが流れた。どうやら住人が該当する階にしか行けないようになっているらしい。
宅配の人はどうするのかしらん。管理人さんに許可をもらって貸し出し用のキーで入るとか?
関係ないことを考え、狭い二人きりの空間で息が苦しくなってきた頃、無機的な音と共にエレベーターの扉が開いた。



