西明寺社長の車に乗って約三時間、私たちは無事に東京に帰り着いた。
「続きは車の中で話そう」と言ったわりに車中での会話はほとんどなく、途中で休憩のために寄ったサービスエリアでおでん定食を食べるときに昔の画家の話をしただけだった。
名物の静岡おでんは社長にまったく似合わなくて、「社長も庶民の食べ物を召し上がるんですね」と言うと、彼は「当たり前だろう」と憮然とした表情で返してきた。
そういえば、こんな濃い見た目でクロワッサンより塩昆布のおにぎりが好みだものね。意外と渋い食べ物が好きなのかも。
美しい箸遣いの社長を見つつアツアツのおでんを頬張り、ふと思った。
はたから見たら、私たちはどう見えるんだろう。
高級スーツを脱いでいても、芸能人のような顔立ちの社長はなんとなく目立っているような気がする。その前に座る、出張用スーツの私。
カップルには……ちょっと見えないかな。
私は気を取り直して、おでんに向き直った。食欲はさほどなかったけど、胃が温まるたびに心が軽くなっていった。



