「朝になって身分を明かし、お前が宿泊しているか尋ねた」
「そうしたら、泊まっていなかったから実家にいると予測して」
「横川さんを訪ねたんだが、もう帰ったと言われた。どうしてこんなところでふらふらしている? 土日は横川ギャラリーの看板娘をやっているんじゃなかったか?」
冗談めかして言う社長に、思わず頬が緩む。私は、誰か話し相手を求めていたのかもしれない。
「……わからなくなっちゃったんです。私がやっていることの意味が」
この人が私の前に現れてから、全てが動きだした。私の世界が変わりはじめた。そうでなかったら、私はおばあちゃんが倒れるまで、何も考えずに今までの生活を続けただろう。
「社長に白旗を上げるときが来たのかもしれません」
私は足元にあった小枝を拾い、波の方へ向かって投げた。波に届かずに砂の上に落ちたそれは、力なくそこに倒れているだけだった。
「どうした。急に弱気になったな」
西明寺社長が戸惑ったように眉間に皺を寄せる。
「ちょっと冷静になればわかることでした。あのギャラリーの存続は難しいって」
おばあちゃんの口から言われるまで、気づかないふりをしていた。気づきたくなかったから。



