砂の上で足が止まる。進むのか戻るのか、私自身にも私の道筋が見えない。
秋の海を見ていても、答えは出ない。わかっていても、寄せては引く波をぼんやりと見つめるしかできなかった。そのとき。
「おい」
肩を叩かれ、反射的に振り返る。そこには、なぜか西明寺社長が立って、私を見下ろしていた。
いつものようなスーツではなく、チェックのカジュアルシャツの上にジャケットを羽織っている。足元は白いレザーシューズだった。
「どうして」
びっくりしすぎて、それ以上言葉が出てこない。こんなところにいるなんて、予想もしなかった。
「お前に会いに来た」
「私に?」
「クラシカルホテル視察のついでにな」
「ええっ」
社長もクラシカルホテルを視察しに来ていたですって?
「まさか、同じ日程で?」
「偶然な。ホテルで見かけたが、仕事中だったようだから。こちらもただの宿泊客を装っていたし」
なるほど、ただの客を装い、スタッフの接客態度や料理の味等をたしかめに来たということか。社長という立場を隠した方が、普段の雰囲気を味わえそうだものね。



