ギャラリーから出たあとも、そのまますんなりと東京に帰る気にはなれなかった。
私は実家のイングリッシュガーデンから見える海辺をあてもなく歩いていた。砂にパンプスの踵がとられ、少しずつしか進まない。
冷たくなってきた潮風が、独特のにおいを運んできた。シーズンオフの浜辺には、ほとんど誰もいない。全身をスウェットスーツに覆われたサーファーが、ぽつぽつと波に乗っているくらいだ。
南国の海のような青さに恵まれない灰色の海を見ていると、どうしてか役立たずな自分のことを考えてしまう。
土日はいつも、実家に帰ってきていた。どれだけ電車賃がかさもうとも、そんなことは気にならなかった。私は東京で、いつもひとりだったから。外食することも着飾ることもほとんどしなくて済んでいた。
それを実家のためと思いこんでいたのは、私だけだったのかも。
疲れたおばあちゃんの姿を思い出すと、胸が痛くなる。
彼女の方こそ、親に捨てられ、絵の道を諦め、友達も少ない、どうしようもない私のために、居場所を維持しなければと無理をしていたのかもしれない。
全部私の独りよがりだった。そう思うのは悲しすぎた。



