「今、新しい絵を描いている途中みたい。完成するまで、帰ってこないつもりよ」
『あらそう。そうでしょうねえ。あの子は夢中になると周りが見えなくなるから。自分でこうと決めたら、てこでも動かないんだもの』
おばあちゃんはいつものおっとりした口調を崩さない。けれど、どこかホッとしているように聞こえた。
『まあ、でも元気で良かったわ』
……こういう人なのだ。おばあちゃんという人は。いくら迷惑をかけられていても、怒ったりしない。たいていのことは受け入れてしまう。
「お父さんが帰ってきてくれればいいのに。お父さんの絵、百万くらいするのに一日で二枚も売れちゃうほど人気なのよ。実家で描いて売って、貯金してくれていれば、借金なんてすぐ返せたかもしれないのに」
『でも家にいたら、あの子らしい絵は描けないかもしれないわね』
もっともな意見に、言葉を封じられた。お父さんの絵は、様々な場所で新しい出会いがあるからこそ生み出される。
「それは、わかるけど……」
穏やかに愚痴を封じられてしまった私は、一瞬何を言えばいいのかわからなくなる。
「あ、そういえば。木金とそっちに出張に行くから」
『木金? 急ねえ』



