独占欲高めな社長に捕獲されました

「売れちゃったんですか?」

 携帯で道程を調べながらたどり着いた下山ギャラリーを訪ねた私を待っていたのは、信じられない事実だった。

 なんと、昨日飾ってあったお父さんの絵がたった一日で完売してしまったと言うのだ。

「せっかく足を運んでいただいたのに、申し訳ありません」

 昨夜も対応してくれた男性が恭しく頭を下げた。

「どなたが買っていかれたかは、もちろん」

「お教えできません」

 だよなあ。今の時代、どの商売でも個人情報を垂れ流すところなんてないよね。そんなことをしていたら、信用を失ってしまうもの。

「もしまた同じ作者の作品が入荷したら、ご連絡をいただけるでしょうか」

「ええ、構いませんが……」

 男性は曖昧に笑った。ここは美術館ではない。商品である絵を買いもしないのに見に来る客と思われたのだろう。私の身なりを見れば、お金持ちでないことは一目瞭然だから。

「よろしくお願いします」

 悔しかったから、苦し紛れに会社の名刺を渡して、すぐに下山ギャラリーをあとにした。