ある日私は、カオスな部屋に立っていた。

壁一面に、女児に人気の魔法少女アニメのキャラクターが描かれた壁紙が貼られたこの部屋は、とあるファミリー向け宿泊施設の一室だ。

壁紙だけじゃない。ベッドカバーも同じキャラクターの違うポーズが描かれ、ベッドの脇にあるキッズスペースのマットも、テーブルも、壁際に置かれたおままごとセットも、ぬいぐるみも全部同じアニメのグッズ。

壁には天蓋を模したような、実用性ゼロのカーテンが括られた状態で飾られている。キャラクターイラストを可愛く見せるためだ。

とにかく細部までキラキラの夢に溢れたダサイ世界を、この手で作り上げた。それが私の仕事だから。

「うん、いいね。絶対子供喜ぶよ。横川さん、合格~」

「ありがとうございます」

最近孫が生まれたという課長がこのダサイ部屋をぐるりと見回して笑顔でうなずく。

子供のいない私には、これのどこが“いいね”と言われる部屋かさっぱりわからない。けど、既に結婚して子供を持っている友達の『子供はなぜかダサいものが好き』という意見を参考に作っただけ。

耐えろ、私。今日は金曜。もう少し頑張れば休日だ。