本当なら、その家人を見つけ出してあければ良いんだろうけど、難しいね。

「篠姫。今からあんたにとって、もっとも残酷なことを告げるけど、覚悟は良い?」

今雪花に乗り移っている篠姫は、想い人のことしか頭に無い、篠姫の心の半分。

もう半分は眠っている篠姫の体の奥深くで、こっちの様子を伺っている。

息を潜めるのと同じように、気配を殺して。

けど、あんたの名前を知ったから、あんたがそこに隠れているのは知ってる。

だからこそ、告げる。

「あんたの想い人、昌吉はとっくに死んでるよ。でも勘違いしないでよ。あんたの父親とか、他の誰かが殺した訳じゃない。昌吉は、あんたの幸せを誰より願っていた」

屋敷を追い出されてからも、ただ篠姫の幸せだけを願い続けた。

良き縁に巡り会い、彼女がずっと笑っていられるようにと、一生懸命祈って。

けれども、元々体の弱かった昌吉は、まともな食事をとれなかったのと、清潔に保てなかった体の中に邪気が入り込み、病にかかってひっそりと亡くなった。

そして、死の瞬間を迎えるその時まで思い浮かべていたのは、あんたの顔。

あんたのことだけを、あいつは想って死に、そのまま成仏することを選んだ。

大体は未練でこの世に縛られるのに、あんたの邪魔になりたくないから……なんて、最後までお人好しというか、昌吉も篠姫のことしか考えてなかったんだね。

「昌吉が願ったのは、あんたの幸せだけ。あんたがそんな風に自分を空っぽにすることなんて望んでないのさ」

「……っ……」

頬から伝う涙。雪花の体を使って、篠姫が流している涙。

あんたは、きっと幸せな方だね。

そんな風に泣けるほど、強く想う相手に巡り会えたことと、強く想ってくれる相手に巡り会えたことが。

例え、結ばれることは出来なくても。

「戻りなよ。あんたのいるべき所に」

「……」

篠姫は小さく頷いて、雪花の体から離れた。

「……っ。桃矢……くん?」

「終わったよ」

視線で御簾を指すと、雪花は後ろを振り返る。

すると、人が起き上がる気配がした。