「と言う話を聞いたんだが。何か分かるかい?」

「あのさ、ここは何でも屋じゃないんだけど」

突然やって来たと思ったら、いきなり三日前から京で流行っている噂を話し出した雨水。

正直、雨水からの依頼はあまり受けたくない。

「確かに何でも屋じゃねぇが、ものの怪絡みのことはおめぇの得意分野だろう?」

「今のところ被害が出てないんなら、こっちからわざわざ手を出す必要はないね」

さっさと帰れという意味を込めて、シッシと手首を前に振る。

「おめぇな。仕事に必要な情報を、いつも誰が集めてると思ってんだよ!」

「それとこれとは話が別だろ!大体あんたが持ってくる仕事はろくなもんじゃないんだからね!偉そうに言わないでくんない?」

腰に手を当てて睨みあげる。

「女みたいな喋り方で胸張っても、全然怖くねぇよ!……あ、外見も女みたいだから余計か。おかっぱじゃなくて坊主にでもしたらどうだ?ちったぁ男らしく見えるんじゃねぇの?」

……人が気にしていることを言ったねこいつ。

外見は生まれつきだし、こんな口調なのもあいつのせいだよ。

あームカつく。

「雨水って、そう言えば猫が嫌いなんだよねー?」

僕は懐から札を取り出すと、にやっと笑みを浮かべる。

「……そ、それがどうした?」

「猫に好かれるまじないをかけてやるよ。これから毎日、あんたを見つけた猫達が嫌ってほどなついてくれるかもね」

「うわぁぁぁぁ!止めろ馬鹿ぁぁぁぁぁ!」

サッと顔を青ざめると、雨水は転がるように外へと逃げていった。

ようやく静かになり、一安心だね。

「お茶をお持ち―?雨水さんは?」

お茶を持ってきた雪花には、先程の雨水の悲鳴は聞こえていなかったらしい。

「帰ったよ。何か急用でもあったんじゃない?」

「そうなんだ。……残念だね」

何でそんな残念そうな顔してんの?

妻子持ちで中年とは言え男なんだけど。

いや、焼きもちとかじゃないからね。言っとくけど。

「?桃矢くん、さっきからどこを見てるの?」

「……別に」

不思議そうに首をかしげる雪花から視線を反らし、雪花の持ってきたお茶を啜る。

関わりたくないし、依頼されてないことはやりたくないのが本音。

でも、絶対関わることにはなりそうなんだよね。

全く。

あいつがものの怪だったら結界も張れるのに。