彼は挨拶をしたと思うと、首をかしげた。



「お名前、聞いていませんでした」



そうだ。


名前を知らないの、私だけじゃなかった。



「麦です。藤野麦」


「麦。いい名前ですね」



彼は意味がわかって言っているのかな?



なんて思わなくて。



彼が私の名前を呼んでくれたことが、とにかく嬉しかった。



「僕はリアムです」


「……リアム」


「はい」



私がリアムと呟いただけなのに、彼は返事をした。



……名前を知れただけ。


それだけなのに、十分だって思えてしまう。



「では、麦。先週探していたもの、教えてもらえますか?」