そんなとき、ふとある言葉を思い出した。それはゲームが始まる直前、由梨が何気なく言った……


『きっと夢の中だから、現実ではあり得ないことが起こってもおかしくないのかもね…』


……という言葉だった。


夢の中だから、何が起こってもおかしくない。


その言葉に何かヒントがある気がした。絶体絶命のこの状況を覆すための、何か、手がかりみたいなものが。


「そうだ、だったら…」


あたしは祭壇の神鏡に目を向けた。


……さっき祭壇の神鏡に触れたとき、なぜか吸い込まれるような感覚がした。


あのときは思い違いだと思ったけれど、実際に指先が”鏡の向こう”へと行った気がしたのだ。


普通なら、そんなことがあるはずないけど。


もしかしたらこの鏡は別の世界へと、鏡の向こうへと通じているのかもしれない…!!


「ここはあたしの夢の中なんだ。だったら、何が起こってもおかしくないはず…!!」


あたしは思いっきり手を鏡にむけ、伸ばした。


憑霊はそんなあたしを見て「ギ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛…!!!!」と発狂し襲いかかってくる。


「うわぁ!!!!」


触れた鏡には大きな波紋が広がる。そして指先から、水の中に入るように吸い込まれていった。


辺りがぐにゃぐにゃに歪み出す。


……憑霊があたしを捕まえる直前に、キーーンという耳鳴りのような音がした。銀色の光があたしを包み込む。


「うわぁぁあ!!!!」


全身が鏡の中に吸い込まれていく。真っ暗なトンネルのような場所を激流に流されるように進んでいく。


……気がつくと、


「いてっ!!」


あたしは鏡の中から弾き出され、また神殿の中へと戻ってきた。