「お疲れ七海。どうだった?」


事務所を出ると、彼氏の沖田恭也(オキタキョウヤ)が事務所の前で待っていた。


高校でサッカーをやっている恭也は日に焼けた顔であたしを心配そうに見つめる。


「少し揉めたけど、話はついたよ」


「そっか。辛かったな。七海」


「うん…」


ぐしゃぐしゃに泣きながら、あたしは恭也の胸に飛び込んだ。


自分で決めたことだったけれど、大好きだったモデルの仕事を辞めるのは想像以上にあたしの心を痛めた。


恭也はそんなあたしの気持ちを汲み取ったみたいで、黙ってあたしを抱き締めてくれた。


大きくて、柔らかい恭也の胸の中。温かい体温と心臓の鼓動が体越しに伝わってくる。何も言わなくても、恭也があたしを思う気持ちが伝わってくる。


きっと、こんな風に抱き締めてくれる人は、もう恭也しかいないんだろうな。でももし、恭也が“あの秘密”を知れば、恭也もあたしのこと……嫌いになるのかな?


嬉しく思う反面、あたしの胸には、そんな不安が過った。