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それからどこをどう走ったのか、ほとんど覚えていない。


無我夢中で走り続けたあたしはやがて見慣れた道にたどり着き、なんとか家に帰ることができた。


トイレを出てからずっと震え続ける手で玄関のドアを開ける。鍵は開いたままだ。


家に入ると中は真っ暗だった。お母さんはドラマの撮影で東京に行っていて今この家にはあたししかいない。


あたしは電気もつけずに上下ともパジャマを脱ぎ捨て自分の部屋に向かった。


時計を見ると午前3時を過ぎたところだ。


勉強机の上で充電していた携帯を手にし、あたしは恭也に電話をかけた。


………が、何度かけてもつながらない。


普通に考えれば、昼間は高校に通っている恭也が夜中の3時に電話に出る方がおかしい。


だけどあの指のこともあって、あたしはいち早く恭也の無事を確かめたかった。……そして、何かの間違いであったと安心したかった。