思わずあたしは恭也に駆け寄ろうとする。しかし、恭也はあたしには目もくれず、憑霊の方に歩き出した。まるで恭也にとってあたしは、見ず知らずの他人のようだった。


恭也は“七海”の姿をした憑霊の隣に来ると「七海。行こう」と言い、左手を差し出した。


……その手は、薬指が切り落とされていた。


「うん。これから、ずっとね…」


憑霊は右手で恭也の手を握る。薬指には、あのシルバーの指輪が光っていた。二人はあたしに背を向け、歩いていく。


「待って!! 待ってよ恭也!!」


あたしは必死に走り二人を追った。だけど二人との距離は一向に縮まらず、遠ざかっていくばかりだ。


「待って…」


やがて二人の姿は暗闇の中に完全に消えてしまった。あたしはただひとり、暗闇の世界に佇む。叫び続けるあたしの声は、もう二度と、誰にも届くことはなかった。