あたしはその赤ちゃんに言い知れぬ恐怖を感じた。すると憑霊はニヤリと笑い、あたしに言った。


「お母さんの子宮の中で、静華は先天的な染色体の異常で死んだの。静華の死体はバニシングツインでお母さんの子宮に取り込まれたけれど、その時、静華の“魂”もまた、お母さんの子宮に取り込まれた…」


呼吸が止まり、赤ちゃんはぐったりとした。憑霊はパッと手を離し、赤ちゃんを落とす。赤ちゃんは憑霊の足元まで来ると、水面に落ちる石のように暗闇の中に沈んでしまった。


そんな赤ちゃんには見向きもせず、憑霊はこう続けた。


「静華の魂はお母さんの子宮を通して、生存していた七海の体に侵入した。そして七海の魂を追い出し、七海の体の主導権を奪った。以後、静華の魂は自分すらも疑うことなく、七海として生まれ、七海として生き続けた。ここまで言えば分かるでしょ? それこそがあんたの正体だ…」


その言葉に、冷たい戦慄が全身の血管を巡った。思わず耳を塞ぎ、首を横に振る。


そんなの嘘だ!! ありえない!!


けれど目の前にいる“七海”の姿をした憑霊が、そして黒髪に変わってしまった今のあたし自身が、それが“真実”であることを嫌でも突きつけた。


今まであたしは、何のために“七海”を守ってきたの…!?


あたしが大切に思っていた居場所は……あたしの“いるべき場所”じゃなかったの…!?


様々な思いが錯綜し、混乱する。そんなあたしを見て、憑霊は満足げな表情を浮かべた。