「な、なんで? ……この傷が……静華の顔に…?」


静華の右目の上に、あの日、浴室の鏡が割れたとき、あたしがつけた傷とまったく同じ傷が刻まれていたのだ。


……訳がわからなくなった。傷があるということは、この頭はあたしの顔で……静華のものではなく、偽物なのだろうか? いやでも、そんなはずは……


そんなことを思っていると、突然、静華の目がパッと見開いた。驚いたあたしは身を固め、その目をじっと見つめる。あたしの目の奥を、心の底まで見透かしているような黒い眼差しだ。


すると、静華の表情がぐにゃっと歪み、


「捕まえたよ“静華”。私の勝ちだ…」


とあたしそっくりの声でしゃべった。瞬間、あたしの手を誰かが後ろから握る。血の気のない、氷のような手だ。


……恐る恐る、あたしは後ろを振り返る。そこには、憑霊の姿があった。


「そ、そんな…」


すぐには状況を理解することができなかった。思考が止まり、目の前が真っ白に変わる。激しい脱力感に襲われ、膝をつくと、急にひんやりとした恐怖が背中に走った。そのとき初めて”自分がゲームに負けた”ことを悟った。


「…………」


一瞬のうちに、色々な思いが頭をめぐる。それが頭の中から溢れると、断片的な言葉で、小言のように口に出していた。やがてそれは、ひとつの疑問に収束した。


……なんで、静華の顔が“あたし”だったの?


目の前にいる憑霊に視線を向ける。すると憑霊の頭が、黒い煙のようなものに包まれていった。