「ほら、もう時間」


そう言い、村上さんはお母さんの手を引いた。


お母さんは引っ張られながら「時間があったら、帰りにその場所に行ってみて」と言い残した。


お母さんがドアから出る直前「待って!」とあたしはお母さんを呼び止めた。


村上さんにおい、いいかげんにしろよ。という目で睨まれながら、あたしは顔を赤くして「今度、いつ家に帰ってこれるの?」とお母さんに言った。


お母さんは嬉しそうに笑い「明日の夕飯には、必ず」と答えた。そのまますぐ村上さんに引っ張られ、お母さんは楽屋から出てしまった。


お母さんがいなくなったあとも、あたしはしばらくお母さんが出ていった楽屋の扉を見つめた。


その手に、お母さんが書いたメモ用紙を握りしめて。