「…………」


お母さんは答えようとしない。黙ったままだ。あたしは詰問するように「お願い! 本当のことを教えて! それがどんなに残酷なことでも……あたしはお母さんの本当の気持ちが知りたいの!!」とつけ加えた。


お母さんは唇を結び、祈るような目で上を見上げた。それからうつむくと「……そうね。正直、最初に妊娠してることが分かったときは……堕ろそうと思ったわ…」と答えた。


ピリッとした緊張が辺りを包む。後ろから、由梨があたしの手を握った。そんな由梨にあたしは目で合図しながら首を横に振る。由梨は少しためらってから手を離した。


「当時、私は深いトラウマを負って、心も体もボロボロだったの。女優として立ち直ることも……人を信じたり、愛情を感じたりすることもできなくなっていたわ。そんな私に、お腹の子を産むなんて選択肢はなかったの。すぐにでも、辛い過去を消し去りたいと願っていたから…」


お母さんの話を、あたしは時々うなずきながら黙って聞いていた。辛くないと言えば嘘だけれど、思っていたよりも、ずっと気持ちは落ち着いていた。


「……だけどね。エコー検査で初めて七海と静華を見たとき、私の気持ちは変わったの」


そう言うと、今までうつむいていたお母さんは顔を上げ、しっかりとあたしの目を見つめた。


窓から注ぐ真っ白い陽の光が、さらに輝きを増してあたし達を照らす。


「この子達は私の中で、一生懸命生きてるんだって。生まれてくる命に、罪はないんだって。それに気がついたとき、私は心から七海と静華に“会いたい”って思ったの。そして二人の……母親として生きていきたいって思ったのよ」


お母さんの言葉に、あたしは涙を流しながらうつむいた。色々な思いが頭をめぐる。


「……ずっとあたし、お母さんに愛されてないって思ってた。小さい頃から、お母さんはあたしを遠ざけてたし、あたしと一緒にいてくれなかったから……それも全部、あたしが望まれて生まれなかったからだって……」


ずっと心の奥にしまっていたお母さんへの思いを口にした。すると、お母さんは首を横に振り、答えた。