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楽屋には大きな窓があり、陽の光が真っ白に部屋全体を照らしている。


今、部屋にいるのはあたしと由梨、英美、そしてお母さんの四人だ。


村上さんはお母さんに何か言われる前に「じゃあ、20分だけだからな」と言い残して、タバコを持ってどこかへ行ってしまった。


お母さんとあたしはお互いに緊張していたせいか、立ったまま向かい合っていた。


無駄話を挟むこともなく、あたしの方から先にお母さんに会いに来た目的を告げると、


「そう。いつか話す日がくるとは思っていたけれど…」


とお母さんはなんとか聞き取れるくらいの小さな声で呟いた。それからうつむくと、


「静華(シズカ)……それが生まれてこれなかった……七海の双子の姉妹の名前よ」


と今度ははっきりとした声で言った。


「静華…?」


あたしは思わずその名前を繰り返した。このとき生まれてはじめて、あたしは自分の姉妹の名前を、そして、今まで“憑霊”としか呼ぶことがなかったあいつの本当の名前を口にしたのだ。


「病院のエコー検査で双子を妊娠していると分かったとき、私が名前をつけたの。右側の子が七海。左側の子が静華って。だけど妊娠七週目の検査のとき、左側の静華だけが……突然、私のお腹から消えてしまったの…」


お母さんの言葉にあたしは、


お腹から胎児が消える? そんなことあるのかな?


と疑問に思った。すると由梨が「バニシングツイン……ですね」と言った。