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涙がようやくおさまった頃、あたし達は公園のベンチに腰掛けた。


二人と一人分ぐらい距離を置いて座っていたあたしは、もう隠し事をするのが嫌になり、例の動画を二人に見せた。


「嘘でしょ、カイトさん…」


動画を見終わり、しばらく沈黙が続いた。


七月の太陽がまぶしいくらい陽を照らしているのに、あたし達の周りだけ、ひんやりとした深い霧が立ち込めているように思えた。


怖くて、二人の顔を見ることはできなかった。


代わりに左腕の袖をまくり、二人に見せた。


「……っ!!」


二人は低い声を上げ、口をつぐんだ。いっそ重たく冷たい空気が辺りを包む。二人は昨晩、憑霊に乗っ取られたあたしが何をしたのか? 全て理解したのだろう。


「…………」


昨日の夜、眠りに落ちたあと、カイトさんは憑霊の徐霊に失敗した。そして憑霊に乗っ取られたあたしは、カイトさんを殺したんだ…。


それからあの動画をいつ撮ったのかは分からないけれど、憑霊はあたしの体を乗っ取ったまま、恭子さんと恭也の家に行き、二人の両親を傷つけ、恭子さんを殺した。


あたしと恭子さんの腕にばってんをつけたのは、“ナナミ”がその手で恭子さんを殺したことを、あたしに分からせるためだろう。


……じゃあなんで、憑霊は自分を徐霊しようとしたカイトさんだけでなく、恭子さんまで殺す必要があったのだろう?


それは多分、恭子さんがマーシャの話をしたからだ。あの話は憑霊にとって、無視できないほど重要な“真実”だった。


それを敵であるあたしに伝えた腹いせと、見せしめのために殺した。体を滅多刺しにしたのは、憑霊のそういった思いの現れだ。


だけどおかしい。協力者を殺すのなら、由梨と英美だって殺されていたはずだ。二日目のあと、憑霊は由梨を殺そうとしていた。


なぜ? ……単に時間がなかった? それもあるだろうけれど、あたしの中でもっとしっくりくるのは、憑霊があたしと入れ代わったあとのことを考えて、二人を生かしておくことにした……ということだ。


……そこまで考えて、あたしは急に考えること自体が馬鹿馬鹿しくなり、黙ったままベンチを立った。


「どこ行くのよ? 七海…」