「お、お母さん……」


紛れもなく、それはあたしのお母さんだった。今よりも若く、黒髪を腰の長さまで伸ばし、女優として全盛期だった樋口静海がそこにいたのだ。


……あたしは悪夢の中で、あの日のお母さんの姿を見せられてる。


そう思った途端、ステージのライトがパッと消え、辺りが真っ暗に変わった。


それから少しして、再び青白い明かりがついた。今度はステージだけでなく、観客席もうっすらと照らしている。


「あれ、お母さん…?」


ステージ上の二人はまるで舞台の場面転換のようにいなくなっていた。


不思議に思い、辺りを見渡す。しかし、そこには誰もいない。


すると、いきなり後ろから「七海ぃ……」と低い男の声が聞こえてきた。


「……っ!!」


恐る恐るあたしが振り返る。その人物は、振り返るよりも早くあたしを抱きしめ、「会いたかったよ。こんなに可愛くなって。お母さんそっくりじゃないかぁ…」と耳元でささやく。


「うわぁっ!!」


あたしはその手を払いのけ、飛び退いた。後ろにいたのは、さっきステージでお母さんを襲っていた男だったのだ。


骸骨のように細い体と、浮浪者のように無造作に髭と髪を伸び散らかし、汚い服装でニタニタと笑っている。その髪はあたしと同じ……金髪のように色素が抜けた明るい茶髪をしていた。


「何よ。あんた…」


恐怖で声帯が縮こまったあたしはやっとの思いで声を出した。