「七海ちゃんも静海さんと同じ色紙にサインしろよ! その方が将来、価値が出そうだからな」


カイトさんはニッと笑った。


「でもあたし、モデル辞めちゃってるのに…」


「それも承知の上で、俺の直感がこう告げてるんだ。七海ちゃんなら将来、絶対にもう一度、芸能界で一花咲かせるってな! ……ん? なんだよその顔? 日本最強の霊能力者様のお言葉だぜ? 道端に転がってる下手な占い師なんかよりは信憑性高いだろ?」


カイトさんの言葉に、あたしは思わずクスっと笑った。


もし憑霊の徐霊が終わって、いきなりあたしが『ちょっと霊能力者のサディスティックカイトさんがお母さんのサイン欲しがってるんだけど、書いてくれない?』なんて話しかけたら、お母さん、どんな顔するだろう?


それが親子の久しぶりの会話になったとしたら、ある意味、面白いかもしれないな。


「分かりました。お母さんに頼んでみますね」


あたしはカイトさんの条件を受け入れた。


「おう、よろしくな! きっと七海ちゃんなら、将来は静海さんと同じ女優にでも……」


そう言いかけ、カイトさんは突然、表情をこわばらせた。


「……どうしたんですか?」


あたしが聞くと、カイトさんは「静かに…」と手で合図する。


「……来るぞ。時間みたいだ」


「えっ…?」


瞬間、蝋燭の火が一斉に消える。室温が冷凍庫のように下がり、背筋に氷を入れられたような寒気が走った。


「ハージメヨ。ハージメヨ…」


もう何度も聞いた、あいつのかすれた声が響く。